天文学は役に立つ?X線天文衛星と科学の関係

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JAXAの新しいX線天文衛星「ひとみ」(c)池下章裕

2月17日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は次期X線国際天文衛星「ASTRO-H(アストロエイチ)」の打ち上げに成功し、衛星は「ひとみ」と命名されました。ブラックホールなど、宇宙の謎の解明に活躍することが期待されています。

天文観測には夢やロマンがあります。美しい宇宙の写真が私たちを楽しませてくれます。しかしそれだけのために全長14mもの大型衛星を、数百億円もの税金を使って打ち上げているのではありません。宇宙に打ち上げられた天文台は私達に何をもたらしてくれるのでしょうか。

地上からは見えない、X線の星空

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2015年まで使われた、先代のX線天文衛星「すざく」(c)JAXA

私達が地上から見上げる星空は美しいものですが、実際には宇宙のごく一部しか見えていません。その理由のひとつは、地球には大気があるからです。海の中の魚が空を見上げてもよく見えないのと同じで、大気圏内からは見えない情報がたくさんあるのです。

宇宙の星々からは人間の目に見える光(可視光線)のほか、電波、赤外線、紫外線、X線、ガンマ線(放射線)なども地球に届いています。しかし、電波と可視光線以外は地球の大気に遮られ、地上では観測することができません。おかげで紫外線や放射線などから守られているとも言えるのですが、天文観測をするには大気圏外、つまり宇宙へ出ないとこれらの観測ができないのです。

JAXA宇宙科学研究所(ISAS)は1976年打ち上げの「はくちょう」以来、2005年打ち上げの「すざく」が2015年に寿命を迎えるまでX線での天文観測を続けてきました。ASTRO-Hはその後を引き継ぐ衛星です。

X線は「高いエネルギー」が見える

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太陽観測衛星「ひので」がX線で撮影した太陽(c)NAOJ,JAXA

私達が地球上で見るさまざまな出来事は、ほとんどが光で見ることができるものです。X線や放射線を出すのは原子力など、特殊なことです。しかし宇宙ではX線や放射線を出すような現象があちこちで起きています。なぜなら、星が輝いているのは核融合反応など、とても高いエネルギーの活動によるものだからです。

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そういった活動は、光だけを見てもよくわかりません。宇宙に存在する物質の9割は、X線で観測しないと見ることができないとも言われています。X線天文学は、光を見るだけでは解き明かせない宇宙の姿を見せてくれます。

写真は、日本の太陽観測衛星「ひので」がX線で撮影した、太陽です。光を使って観測しても、太陽は全体が真っ白に白熱してます。しかしX線で見るとこのように、活発な活動をしている部分とそうでない部分が見事に見えてくるのです。

宇宙がわかると物理学が進歩する!

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地上で素粒子の実験をする巨大な加速器。天文観測と加速器実験の両方が必要だ。(c)KEK,Tokio Ohska

さて、星空に興味がない方にとっては、それでも「星がわかったからと言って何の役に立つんだ?」と感じるかもしれません。実は天文学者や宇宙物理学者でも、空を見上げても星座の名前はよくわからないといった人も少なくありません。あまり星空のロマンは関係ないのです。

ブラックホールや銀河のような巨大な天体で起きる物理現象は、地球上の実験装置では作り出せません。とてつもなく大きなエネルギーの現象です。宇宙誕生の直後に起きた「ビッグバン」や「インフレーション」はさらに途方もない現象です。

一方で、物理現象は小さな粒子で起きるものほど、大きなエネルギーが必要という性質があります。身の回りで起きる化学反応は原子と原子の結びつきで起きますが、原子そのものが変わる現象(核分裂、核融合、崩壊など)は化学反応とは桁違いに大きなエネルギーです。それより小さな素粒子の現象は、さらに大きなエネルギーでないと調べることができません。

このため、素粒子の研究は地上での実験だけでなく、宇宙の研究も重要なのです。宇宙で起きていることを観測することで、巨大な実験装置でもわからないことが解明できるかもしれないからです。天文学は物理学と結びついて、宇宙物理学という学問になっています。

結論、天文学は人類を進歩させる

私達が今使っている最新のテクノロジーも、物理学が発展しなければ実現しませんでした。目に見えないほど小さな電子回路の働き、高速通信を実現する電波、病気の原因を探るナノレベルの生物学…生活とはかけ離れていそうなアインシュタインの相対性理論も、GPSなどの衛星ナビゲーションには関係しています。時空のゆがみを計算に含めないと、衛星は正しく動作しません。

X線天文衛星だけでなく、さまざまな天文観測が宇宙の謎をひとつずつ解き明かしていけば、それだけ物理学も進歩します。新しい物理学を応用すれば、さらにすごい技術が誕生したり、身の回りで起きる謎の現象が解明されたりするかもしれません。はるか138億光年の宇宙の果てと私達を結びつけるもの、それが天文学なのです。

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大貫 剛
東京都庁に技術職職員として11年間勤務後、民間宇宙開発を志して退職。ベンチャーを経て、宇宙開発や前職の経験を生かして公共事業に関する解説などの、情報発信をしている。宇宙作家クラブ会員。

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