伝説の超小型ロケット宇宙へ!意外な歴史と「実力」

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2017年、日本で打ち上げられる宇宙ロケットの先陣を飾るのは、Soraeがいち早く紹介した超小型宇宙ロケット「SS-520 4号機」だ。1月11日午前8時48分に鹿児島県の内之浦から打ち上げられる。

「世界最小宇宙ロケット」との呼び声も高いSS-520 4号機だが、その正体は意外なものかもしれない。

 

都市伝説だった?SS-520の「隠れた力」

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「このロケットは、JAXAの中では都市伝説のようなものだったんです」

計画を提案し、打ち上げにこぎつけたJAXA(宇宙航空研究開発機構)の羽生宏人准教授は、少しいたずらっぽい笑顔を見せた。都市伝説?どういうことだろうか。

まず、今回のロケットの基本形であるS-520について説明しなければならない。SS-520とS-520はSの数がひとつ違うが、これはロケットの段数を意味している。S-520は1段式、SS-520はS-520に第2段を追加した2段式のロケットだ。どちらも「観測用ロケット」と呼ばれるもので、宇宙空間まで高く上昇するものの、人工衛星にならずに落下してくる。到達高度はS-520で300km、SS-520で800km程度だ。

S-520は1980年、SS-520は1998年に初めて打ち上げられたが、SS-520は当時から「第3段を追加すれば人工衛星の打ち上げが可能」と言われていた。しかし、実際に打ち上げられることはなかったため、SS-520で人工衛星を打ち上げられるという話は「都市伝説」のようにJAXA内でくすぶり続けていた。

できると言うだけではなく、実際にやってみる。羽生准教授は自ら説明に回り、経済産業省の補助金を獲得してロケット開発にこぎつけた。

 

「シリーズ化しない」あくまで実験のワケ

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超小型衛星打ち上げ用の超小型ロケットは、インターステラテクノロジズ社などでも開発されており、民間宇宙ビジネスのひとつとして今後広がりそうだ。筆者もSS-520による衛星打ち上げに大きな期待を持って取材を進めてきたが、羽生准教授は「シリーズ化の予定はない」、つまり超小型ロケットとして量産する予定はないと明言した。なぜだろうか?その答えはSS-520が打ち上げる人工衛星の軌道にあった。

ロケットが人工衛星を軌道に乗せるためにやるべきことは

  • 大気圏外まで高く上昇する
  • 人工衛星を水平に加速する

の2つだ。SS-520は第2段にのみ姿勢制御機能があるので、まず第1段の力で大気圏外へ上昇、次に第2段を水平に向けて点火し、さらに第3段で衛星を加速して軌道速度に達する。ここでひとつ問題が起きる。第1段の能力で、高度が決まってしまうことだ。SS-520 4号機が衛星を軌道に乗せる高度は180kmで、人工衛星としてはかなり低い。わずかな空気の抵抗で衛星にブレーキがかかり、数か月で地球へ落下してしまうのだ。これでは実用には使いにくい。

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もっと実用的にするために第3段を大型化したり、第4段を追加したらどうだろうか。これではロケット全体が重くなり、第1段の到達高度が下がってしまい本末転倒だ。第1段を大型化したら?それだとSS-520ではなく別のロケットになってしまう。「SS-520を大きく変えずに衛星を打ち上げるのは、この高度が限界」というのが、作ってみた結果の結論だった。

 

最小を極める、開発の意義

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「SS-520は衛星を打ち上げることができる」というJAXAの伝説。それを実際に作ってみた結果は「打ち上げることはできるが、実用ロケットとしては使いにくい」というものだった。では、この実験は打ち上げる前から失敗なのだろうか?もちろん、そんなことはない。

まず重要なことは「世界最小の宇宙ロケット」を最小限の開発費で作ったということ、それ自体にある。SS-520をほとんど無改造、第3段追加だけで宇宙ロケットに仕立て上げたので、開発費は最小限に抑えることができた。そして「これ以上小さくできない、最小の宇宙ロケット」を実際に飛ばしてみることができる。実用的な物を開発する前には、技術の限界を極めてみることが重要だ。これ以上小さくすることができないという「サイズの下限を極める」ことで、実用的な超小型ロケットを作るときのさじ加減がわかるようになる。

また、研究開発を革新的な技術に絞ることができた。新しく搭載された電子部品はロケット用に特別に開発されたものを極力使わず、携帯電話用などの一般的な部品を採用した。こういった部品の採用で、将来のロケットの価格を安く抑えることができる。

 

伝説を検証してみた、その先にあるもの

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実は日本初の人工衛星「おおすみ」を打ち上げた「ラムダ(L)ロケット」も、SS-520 4号機と似た経緯がある。もともと人工衛星打ち上げ用ロケットとしては「ミュー(M)ロケット」が計画されていたが、観測用で3段式の「L-3」に第4段を追加して「L-4S」を開発し、人工衛星打ち上げのいわば練習台とすることに成功した。「L-4S」は世界最小の人工衛星打ち上げロケットで、おそらく現在もこれより小さなロケットは存在しないと思われる。そして、「L-4S」の打ち上げ成功は1回きりで、以後は打ち上げられていない。

今回のSS-520 4号機もあくまで実験であって、SS-520が宇宙ロケットとして華々しくデビューするというわけではない。しかし、ラムダロケットに続くSS-520の「伝説」を超えていくことで、日本の宇宙ロケットはさらに新しいチャレンジへと進んでいくだろう。

Image Credit: JAXA、東京大学

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大貫 剛
東京都庁に技術職職員として11年間勤務後、民間宇宙開発を志して退職。ベンチャーを経て、宇宙開発や前職の経験を生かして公共事業に関する解説などの、情報発信をしている。宇宙作家クラブ会員。

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