防衛通信衛星で見える「宇宙開発の不都合な真実」

スペシャリスト:
Sponsored link

2017_01_25_xband

 
日本の宇宙平和利用原則が「非軍事」から「非侵略」という国際基準に変更されて以来初となる、防衛省の独自人工衛星であるXバンド防衛通信衛星「きらめき2号」が打ち上げられた。自衛隊にとっては新たな宇宙利用の幕開けだが、日本の宇宙開発にとっては今まで大きな声では言えなかった「不都合な真実」の集合体のような打ち上げだ。
 

「宇宙は使いたいけど、日本製は買いたくなかった」

2017_01_25_xband1

 
防衛省がXバンド防衛通信衛星の調達と運営をPFI事業として契約したのは、2012年度末のことだ。その直後の2013年4月、内閣府の宇宙政策委員会で防衛省はこのように報告している
 
「防衛省が行った調査研究などによれば、宇宙利用の基盤である国内打上げロケットは約20~30%、国内衛星バスは約15%程度割高。そのため、現在のところ、国内産業は、宇宙を利用する“顧客”としての防衛省にとって魅力的なサプライヤーとは言い難い」
 
日本製のロケットと衛星を購入した直後に、日本製品は高くて魅力的ではないと、数字を挙げて言い切ったのである。実際、当初2機契約した「きらめき」のうち「きらめき2号」は国産のH-IIAロケットで打ち上げるが、「きらめき1号」にはヨーロッパ製のアリアン5ロケットが選択された。
 
政府の宇宙開発戦略本部は閣議決定で「政府衛星の打ち上げに当たっては基幹ロケットを優先的に使用して打ち上げる」と明言しており、政府機関は特別な理由がなければ、国産のH-IIAロケットやイプシロンロケットを使用して衛星を打ち上げている。気象庁の気象衛星「ひまわり」も、国産ロケットが開発され使用可能になった「ひまわり2号」以後は全て国産ロケットを使ってきた。防衛省は入札条件で国産ロケットの優先利用を挙げていたが、絶対条件とはしていなかった。
 
日本企業が買わない国産ロケット

 
今回の「きらめき」シリーズはPFI方式、つまり民間企業が衛星の製造・打ち上げ費用を負担して運用も行い、防衛省から使用料金を受け取るという契約方式となっている。その民間企業とは、スカパーJSAT。「きらめき1号」にH-IIAロケットではなくアリアン5ロケットを選択したのもスカパーJSATだ。
 
スカパーJSATは16機もの通信衛星を保有する日本最大の衛星通信サービス企業だ。ならば日本のロケットの最大の顧客かと思いきや、なんとスカパーJSATはこれまで1機も、H-IIAロケットで衛星を打ち上げたことがない。宇宙政策委員会でロケットについて意見を求められたスカパーJSATは、このように答えた。
 

政府委員
「打ち上げサービスを調達するにあたって、どのような点を重視しているのか」

スカパーJSAT
「商業打ち上げ市場においては、信頼性が最も重視されており、次いで価格や打ち上げスケジュールの柔軟性が重要である」

政府委員
「ロケットの信頼性だけでなく、信頼度を評価するうえで、打ち上げ成功率だけでなく、どういった指標を考慮するのか」

Sponsored link

スカパーJSAT
「打ち上げたいときに打ち上げてもらえるという観点から、打ち上げのバックアップなどにも柔軟に対応できることなどが重要」

 
逆に言えば、H-IIAロケットは成功率が高くても、打ち上げたいときに打ち上げられる柔軟性やバックアップ体制が不足していると理解できる。以前の記事でH3ロケットは種子島宇宙センターの受け入れ態勢に難があると解説したように、宇宙輸送サービスは安くて成功率が高ければよいものではない。「運送業」としてのきめ細かいサービスが求められているのだ。
 
今回、「きらめき1号」の打ち上げにH-IIAロケットが選ばれなかった理由は明らかではないが、防衛省はPFI契約に時間がかかる(衛星運用にも適用するために法改正が必要だった)ために1号用の部品を一部先買いして納期を短縮するほど急いでいた。H-IIAロケットが希望の時期に打ち上げられなかったのかもしれない。ただ、「きらめき1号」は発射場への輸送中にコンテナごと破損、打ち上げが2016年から2018年に遅れるという皮肉な結果になった。
 
今回のH-IIAロケット32号機は、政府衛星のPFI契約といういわば「お付き合い」での選択とはいえ、スカパーJSATが初めて利用するH-IIAロケットだ。ここでスカパーJSATがH-IIAロケットに満足すれば、次回以降のH-IIAロケット契約もあるかもしれない。まさに正念場と言えるだろう。

 

国産衛星も「リピーター」獲得なるか

superbirdc2

 
人工衛星の製造は大型自動車に似ている。大型自動車は走行装置である「シャシー」に様々な装置を載せることで、トラックにも冷蔵車にも、消防車にもなる。人工衛星では「衛星バス」というものに、衛星通信装置を載せれば通信衛星が出来上がる。気象衛星や測位衛星なども製造可能だ。
 
「きらめき」は三菱電機製衛星バス「DS2000」をもとに作られた。「DS2000」は気象衛星「ひまわり」の7号以降や測位衛星「みちびき」などの政府衛星のほか、4機の商業通信衛星が打ち上げられている。その最初の顧客は、スカパーJSATだった。
 
ところがスカパーJSATは2008年打ち上げの「スーパーバードC2」にDS2000を採用して以後、DS2000を購入したことがない。「きらめき」は8年ぶりとなるDS2000衛星だが、言うまでもなく政府衛星は国産を優先するという方針あってのことだ。このほかにシンガポールと台湾の企業から1機、トルコ企業から2機の衛星を受注し打ち上げたが、いずれも初回の契約のみ。追加発注には至っていない。
 
通信衛星は顧客である衛星通信会社の要望に応じて、きめ細かいオーダーメイドが求められる。数百億円もするのに故障したら修理ができず、10年以上使用する通信衛星は、長期間の衛星通信ビジネスを満足する最高の性能と、絶対に故障しない信頼性の両立を求められる。それをいかに短期間で柔軟に実現し、顧客が必要とする時期に打ち上げるかによって、同じ価格でも衛星が生み出し得る「ビジネス上の価値」は大きく左右されてしまう。この点で、国産衛星は欧米メーカーにまだ開きがあると思われる。
 
防衛省が渋々購入した、国産のロケットと衛星。それを請け負ったスカパーJSATに、日本の宇宙産業は合格点をもらえるのだろうか。
 
Image Credit: 防衛省、JAXA、三菱電機

Sponsored link
大貫 剛
東京都庁に技術職職員として11年間勤務後、民間宇宙開発を志して退職。ベンチャーを経て、宇宙開発や前職の経験を生かして公共事業に関する解説などの、情報発信をしている。宇宙作家クラブ会員。

スポンサー

NEWS

コラム

  • イベント情報