[インタビュー]空を飛ぶ青春、グライダー漫画「ブルーサーマル」のリアル

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大学の航空部をご存知だろうか。グライダーで空を飛ぶことをスポーツとする長い歴史を持つ体育会系部活動だが、一般にはあまり知られていないのではないだろうか。この航空部を舞台に、グライダーで空を飛ぶ青春を描いた漫画が「ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-」だ。今年5月に4巻が発売され、現在も連載中というのはスカイスポーツの関連作品では異例のヒットだろう。

この「ブルーサーマル」の作者の小沢かなさん担当編集者の榎谷純一さんに、自身も鳥人間コンテスト経験者でパラグライダーパイロットでもある大貫剛がインタビューし、「ブルーサーマル」の誕生秘話と魅力を伺った。

 

ずっと描きたかったグライダー「辞めるなら描いてからにしろ」

大貫:小沢さんは、ご自身が航空部の経験者なんですよね。

小沢:大学の航空部に所属して、自分も飛行していました。大学入学前から漫画家として少女漫画を描いていたので、グライダーの作品も描きたいとずっと思っていたんです。漫画家を続けることに限界を感じてあきらめようと思い始め、師匠のうめさんに「最後にグライダーの話を描きたい」と話したら「それは是非描いてからにしろ」と言われて、企画の持ち込みを始めました。

グライダー漫画を描けるようになった理由には、技術の進歩もあります。グライダーをかっこよく描くのは難しいですが、デジタル作画や3Dモデリングで表現が広がりました。

大貫:グライダーは世間的にはマイナーですよね。でもマイナーな競技が漫画でブレイクすることもある。編集部ではどう考えたのですか。

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榎谷:漫画の基本は人間ドラマですから、そこが面白ければマイナーな舞台でも楽しんでもらえます。それに空は魅力的でキャッチーです。

連載前に(小沢さんと)グライダーを見学に行ったところ、最初は見学だけのつもりだったのですが、勧められていきなり体験搭乗することになりました。怖いという気持ちもあったけれど、これが普通に部活でできるのは凄いなと思いました。

 

経験者としての「こだわり」の葛藤

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大貫:作品中で主人公のつるたま(都留たまき)が体験搭乗して、空に魅入ってしまったのと同じ体験ですね。

榎谷:小沢が忘れてしまった最初の気持ちを体験しようと思いました。実際、最初のプロット(作品の基本的な企画)はもっと詳しくて、グライダーをわかっている人向きの内容でした。入部してからの様子を順序通りに描くと、普通の人から見ると教科書のようでつまらない。でも、そこを飛ばしても話は繋がります。飛ばした部分を読者に想像してもらうことが重要です。

大貫:僕は飛行機が好きなので練習の詳しい話なども期待してしまうのですが、確かに一般の読者は飽きてしまいますね。

小沢:練習の話を全部飛ばしてしまったので、初めてのソロフライト(教官が同乗せず練習生1人での飛行)の話ではページ数を掛けて、図も入れたりして詳しく描いています。

企画が通ってから連載開始まで、こだわりを捨てるのに3年掛かりました。描きたいことをそのまま描いても、商業誌では受け入れてもらえない。私の感覚が一般と違うことに気付いていなかったんです。私は「空を飛ぶ部活があったら入りたい」と思うのが当然と思っていたのですが、そういう人はあまりいないと。

大貫:僕もそう思ってしまう人ですが、それは変な人です(笑)。

 

グライダーは正確に、ドラマは大胆に

小沢:「空にひとめぼれ」では読者がついてこれないので、主人公がどうしてグライダーに乗るのか、その入り口に一番苦労しました。ある事件が起きて仕方なく航空部に入るのですが、それがどうしても受け入れられず、半年ぐらい悩んで止まっていました。

大貫:あの最初のエピソードは僕も「そりゃないよ」と思いましたね。鳥人間の経験もありますから、そんなことありえないよと。

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小沢:グライダーをやったことがない榎谷さんや師匠は全く抵抗がなかったのですが、私は「最初から嘘ですが」と言い訳したくなってしまいます。第1話を読んだ航空部の学生さんなどには怒られたこともありました。学生さんが同じことをやったら怒られますからね。

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榎谷:スポーツものの少年漫画でヒットした作品は、作者が自分では経験していないスポーツが多いんです。だから、実際に経験した人には思いつけないような嘘があって、それが面白い。青年誌ではあまり嘘は書けませんが、ちょっと嘘が多い方が面白い。

大貫:だから、グライダー競技は正確に描きつつ、ドラマのところで大胆にフィクションを入れるんですね。飛行機好きとしては、グライダーが正確に描かれていればドラマのフィクションを素直に楽しめます。ところで、バンチの読者層はどんな方々なんですか?

榎谷:バンチには特定の読者層を決めていません。雑誌全体ではなく、作品ごとに読者層を考えて作品を作っています。「ブルーサーマル」が読者層に合う掲載誌を探す、と考えると見つからないかもしれません。

王道の主人公「つるたま」と、等身大の部員たちの魅力

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大貫:主人公のつるたまは「やってみたら天才だった」、漫画の王道タイプですね。

小沢:最初は才能のない子が頑張る話にしたかったんです。自分がそうだったので。でもメジャーなスポーツではうまくいかない主人公でも良いのですが、マイナースポーツで主人公が悩んじゃったら読んでもらえないとアドバイスをいただいて、確かにそうだなと。魅力的で読者を引っ張ってくれる主人公にしました。つるたまは天才ですが、私自身はそうではなかったので、天才とはどんな人か取材しました。教官から見ると、教えたことをその通りにすぐにできてしまう人は実際いるのだそうです。

榎谷:普通では連載の1話目は30ページ前後のところ、「ブルーサーマル」は60ページ掲載しました。主人公がグライダーで初めて空を飛ぶところまでを描かないと読者が入り込めないと思ったからです。バンチでは初の、新連載で読者アンケート1位になりました。

大貫:それはすごいですね。漫画は最初のうちは駆け足の詰め込み過ぎになっている作品もよく見かけますが、「ブルーサーマル」はじっくり描かれていると感じました。3巻までは主人公中心の話になっていますが、4巻から周辺の人達や、競技としてのグライダーにストーリーが広がりましたね。

小沢:4巻でようやく、ライバルの話を掘り下げることができました。全てのキャラクターにそれぞれの人生があって、航空部に入部しています。

つるたまを天才にしてしまったので、私自身からは少し遠ざかってしまいました。そのぶん周りのキャラクターにいろいろな人を描いています。作品中には航空部員だけどパイロットとして飛ぶのではなく、いろんな事情があって裏方専門の人もいますが、そういう人は実際にいます。全員を描ききるまで連載を続けていきたいですね。

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大貫:魅力的なキャラクターがたくさんいますから、楽しみです。つるたまはどう成長していくのでしょうか。

小沢:実は第1話冒頭でつるたまが飛行しているシーンは、世界記録を持つ女性グライダーパイロットの櫻井玲子さんをイメージしています。学生グライダーの先にある広い世界を目指していきたいです。

大貫:つるたまも「世界一!」って言ってますしね。

 

空との距離を縮めたい「ブルーサーマル」

大貫:埼玉県や熊谷市などの自治体、グライダー関係者などからの期待も高いですね。

小沢:作品中では舞台となる滑空場を「M沼」と書いていますが、モデルは埼玉県熊谷市の妻沼(めぬま)滑空場です。でも埼玉県全体はもちろん、熊谷市でも市内でグライダーが飛んでいることを知らない人は少なくありません。「ブルーサーマル」でグライダーを知って、空との距離が縮まったらいいなと思います。

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実際の航空部の学生も「ブルーサーマル」のキャラクターと同じで、大半は大学に入ってから勧誘でグライダーを知った人です。入学前に「ブルーサーマル」を読んで航空部を知り、入部する人が増えたら嬉しいですね。もしいたら是非教えてください(笑)

大貫:グライダーに限らず、日本ではスカイスポーツを縁遠いものと感じている人が多いと思います。「ブルーサーマル」でグライダーファンが増えたら僕も嬉しいです。

ところでタイトルの「ブルーサーマル」ですが、スカイスポーツの用語で「雲などを伴わず、目に見えない上昇気流」のことですね。作品中であまり明確に説明されていないのが気になっています。

小沢:実は「ブルーサーマル」には別の意味も持たせています。作品の中で少しずつ描いていきたいと思いますので、楽しみにして下さい。

 

Image Credit: 小沢かな/新潮社

ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-(試し読み)

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大貫 剛
東京都庁に技術職職員として11年間勤務後、民間宇宙開発を志して退職。ベンチャーを経て、宇宙開発や前職の経験を生かして公共事業に関する解説などの、情報発信をしている。宇宙作家クラブ会員。

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