千葉大会直前!初心者が体験したレッドブル・エアレースの魅力

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空を駆ける飛行機のスピードレース、エアレース。2015年にレッドブル・エアレースが初めて千葉で開催され、日本でも知名度が高まったが、現地やテレビで見たという方はまだ少数派ではないだろうか。長くスカイスポーツを趣味とする筆者も、エアレースを見に行ったことはなかった。そんな筆者が6月3日・4日のレッドブル・エアレース千葉大会の前に一足早く、4月のサンディエゴ大会を取材する機会を得た。その模様のレポートを含め、エアレースの魅力を紹介しよう。

時速370km、1秒で1回転できる「空飛ぶレーシングカー」

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レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップは、1年間に世界8箇所の大会で最速のエアレースパイロットを決める、世界唯一の競技会だ。ではエアレースとは何か。おおざっぱに言えば、自動車レースの飛行機版と考えればいいだろう。最新のスポーツ専用機を徹底的にチューンして、操縦技術を磨き上げたパイロットが操縦してタイムを競う。

大会会場に着いて最初に飛び込んできたのは、レース機の心地よいサウンドだ。プロペラ機特有の「ブーン」という乾いた音は、自動車ともジェット機とも異なる、軽快さと力強さを持っている。レッドブル・エアレースに出場する14名の選手のうち13名が使用する「エッジ540」は、340馬力のエンジンを搭載した1人乗りプロペラ機だ。機体の最高速度は426km/h、またロールレート(機体を横転方向に回転させる速度)は毎秒420度で、1秒弱で横に1回転できてしまう。

日本の室屋義秀選手が使用しているのは、最新機種「エッジ540V3」。レース機は日々進歩しており、最新機種以外で優勝するのは難しいという。レース中は急旋回で機体に猛烈な抵抗が掛かるため、エンジンは終始フルスロットルのままだ。自動車で言えばアクセルをベタ踏みしたまま、ハンドル操作でコースを駆け抜けるようなもの。パイロットには10Gもの荷重に耐える強靭な体力と、正確無比な操縦テクニックが求められる。室屋選手によれば、操縦のタイミングは事前に繰り返しイメージトレーニングしており、景色を見ながら飛ぶのでは間に合わないそうだ。

高さ25m、巨大なエアパイロン

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レースでは1機ずつ飛行するタイムトライアルで行われる。レッドブル・エアレースの特徴のひとつが、コースに並べられた巨大なパイロンだ。特殊な布で作られたパイロンは、風船のように空気圧で膨らむ強度を持っているが、機体が接触すると簡単に破れるので、レース機に絡み付いたりしない。パイロンは縦に並んでシケインを作ったり、横に並べてエアゲートを作ったりするが、パイロンに接触(パイロンヒット)すると1回につき3秒のペナルティが与えられ、3回ヒットすると失格となる。他にも通過時の高度が高すぎたり、機体を水平にして通過しなかったりすると2秒のペナルティなど、いくつかのペナルティがある。1分前後のタイムを競う中で、2、3秒のペナルティは非常に大きなものだ。

パイロンヒットすると、切り裂かれたパイロンは即座に修理される。このパイロン修理もエアレースの楽しみのひとつだろう。パイロンは9段に分かれており、各段はチャックで結合されている。「エアゲーター」と呼ばれる修理チームがボートで駆け付けると、敗れたセクションを新品と交換して再度空気を入れ、膨らませる。作業時間はわずか1分ほどだ。

ARが盛り上げる「空のデッドヒート」

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ここで、大会の進め方を見ていこう。まず予選が行われ14名の選手が順に飛行するが、予選での脱落はない。次の本戦1回戦となる「ラウンド・オブ14」と呼ばれ、2人×7組に振り分けられたパイロットが一騎打ちをする。この組み合わせは予選のタイム順に決められ、勝者7名と、敗者の中で最も速かった1名が2回戦に進出する。

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タイムトライアル競技の難点は、今競技中の選手が速いのか遅いのか、見ていてもわかりにくいことだ。そこでレッドブル・エアレースでは実況解説のほか、AR(仮想現実)を導入している。一騎打ちの2人目が飛行する際、観客席の大型モニター上に現在の飛行と対戦相手の飛行を重ねて表示することで、あたかも同時に飛行してデッドヒートしているように見せているのだ。会場では画面と実際の飛行のどちらを見るか悩ましいが、将来はヘッドマウントディスプレイ(HMD)により、実際の飛行AR表示も楽しめたら素晴らしいだろう。

サンディエゴ大会では「ラウンド・オブ14」の1番目に飛行した室屋選手が対戦相手のピート・マクロード選手(カナダ)を破り、2回戦に進出した。2回戦は「ラウンド・オブ8」と呼ばれ、4組の一騎打ちが行われる。組み合わせは「ラウンド・オブ14」のタイム順で決まる。ここで室屋選手に「空の神様」がチャンスを与えた。対戦相手はマルティン・ソンカ選手(チェコ)だったのだ。

アブダビで開催されたレッドブル・エアレース第1戦で、室屋選手は13位とふるわなかったが、ソンカ選手は1位。「ラウンド・オブ8」で勝利すればソンカ選手を5位以下に落とすことができ、一気に差を縮められる可能性がある。そして室屋選手はわずか0.2秒の差でソンカ選手を下すことに成功した。

大逆転?最後まで油断できないパイロンヒット

勝ち残った4人の選手は「ファイナル4」と呼ばれる決勝戦に進む。「ファイナル4」では4機が続けて飛行し最速の選手が優勝だ。室屋選手は1番目に飛行し、この日の予選・本戦で自己最速記録となる58.529秒を叩き出した。

2番目に飛行するのは、2016年年間チャンピオンのマティアス・ドルダラー選手(ドイツ)。ドルダラー選手は予選で58.332秒をマークしており、このタイムをもう一度出せれば室屋選手に勝利できる。しかし「14」「8」ではいすれも59秒台で、このフライトをしては室屋選手に及ばない。後から飛行するドルダラー選手に大きなプレッシャーが掛かったことは想像に難くない。

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ドルダラー選手の飛行が始まった。スクリーンに投影される室屋選手のAR画像「ゴーストプレーン」とドルダラー選手はほぼ互角だったが、わずかずつドルダラー選手が先行し始める。このまま行けばドルダラー勝利か、と思われた最後の宙返りに入るとき、ドルダラー機の主翼がエアゲートを切り裂いた。「パイロンヒット!」3秒のペナルティが下された瞬間、室屋選手の勝利は確定した。緊張の糸が切れたのか、ドルダラー選手のタイムはペナルティを加えなくても室屋選手に0.1秒遅れていた。

このあと地元アメリカのカービー・チャンブリス選手、スロバキアのピーター・ポドランセック選手が飛行したが室屋選手には及ばず、室屋選手の優勝が決まった。2016年の千葉大会に続く2回目の優勝、そして日本以外での初めての優勝だ。サンディエゴの海岸に表彰式の君が代が響き渡り、アメリカのファンから惜しみない拍手が上がった。

凱旋の千葉大会、「真ん中」を目指す室屋選手

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帰国した室屋選手は、千葉大会へ向けての抱負を語った。2016年は千葉大会での初優勝こそ果たした物の、年間記録は6位で、室屋選手にとって満足できるものではなかった。しかし機体のチューニングなども含めて「チームは正しかった」という確信を持つことができたという。

今シーズンは初戦のアブダビこそ出遅れたものの、サンディエゴでの優勝という最高の流れで千葉に凱旋する。勝利に必要なのは自信を持つことだと語る室屋選手は、千葉への秘策を聞かれてこう答えた。

「トイレが3つあったら、真ん中を使う」

サンディエゴ、トイレに続いて、千葉の表彰台でも「真ん中」に立てるか。大会は6月3日・4日に迫った。

Image Credit: Red Bull Content Pool、大貫剛

レッドブルエアレース千葉大会公式ページ

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大貫 剛
東京都庁に技術職職員として11年間勤務後、民間宇宙開発を志して退職。ベンチャーを経て、宇宙開発や前職の経験を生かして公共事業に関する解説などの、情報発信をしている。宇宙作家クラブ会員。

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