金星探査機「あかつき」5年越しの完全復活、観測成果を発表

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宇宙航空研究開発機構(JAXA)は2016年3月31日、金星探査機「あかつき」の試験観測の中間報告を行った。それによると、探査機として最低限達成するべき目標として設定されていた「ミニマムサクセス」に相当する観測に成功し、さらに観測を継続しているとのことだ。

全ての観測装置が正常「やったね!」

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「あかつき」には3種類の赤外線カメラと、紫外線カメラ、雷・大気光カメラ、そして地球上の観測機器と連携して観測する電波発信機を備えているが、その全てが正常に機能していることが確認された。

「あかつき」は2010年12月7日に金星に到着したが、金星周回軌道に入るための噴射に失敗、そのまま金星を素通りしてしまった。探査機を失いかねない深刻な事態に陥ったが、通信で得られた限られた情報から状況を把握し、復旧に漕ぎ着けた。しかも、本来は打ち上げから約半年で金星に到着し、そこから2年間の観測を行う予定だったが、再度金星に到着して軌道投入に成功したのは2015年12月7日。打ち上げから5年半が経過してしまっていた。

にも関わらず、全ての観測機器が正常だったのはなぜか。中村正人プロジェクトマネージャーは「太陽活動が予想より穏やかだった。通常の太陽活動での放射線に4年以上耐えるように設計していたので、予想より劣化が遅い。しっかりと作った探査機は長持ちするものだ」と、幸運と努力の両方がもたらした結果であることを強調した。

金星の新たな観測結果を心待ちにしている世界中の研究者へ向けて、4月にはオックスフォード大学で開かれる学会で「あかつき」の発表が予定されている。ようやく成果を発表できることの感想を質問された中村氏は大きな声で「やったね!」と、満面の笑顔で語った。

1週間連続撮影で「ミニマムサクセス」達成

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金星の大気には4日で星を1周する「スーパーローテーション」という風があり、雲も7日で1周してしまう。そこで、7日連続で金星を観測することがミニマムサクセスとされていた。金星は可視光線で見ると白い雲に覆われ、コントラストが少ないが、様々な波長の光で観測することで雲の動きを見ることができる。

「あかつき」は3月13日から19日にかけて金星を観測し、連続7日間の画像を地球へ送ってきた。これで「あかつき」はミニマムサクセスを達成したことになる。また、長野県の臼田宇宙空間観測所のパラボラアンテナが雪に覆われているためにデータの受信能力が落ちており、「あかつき」に記録されている観測データのダウンロードが滞っているため、実際にはもっと多くの観測が行われている模様だ。

では、「あかつき」の観測装置とそれぞれの観測画像を順に見ていこう。

雲を透かして火山を探す、1μm赤外線カメラ

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1μm(マイクロメートル)赤外線カメラ(IR1)は、金星の雲を通過する赤外線を撮影して、地上の様子を探るカメラだ。今回発表された画像では、周辺より高い台地状の「アフロディーテ大陸」の地形が映っている。

金星には火山があると考えられているが、これまでの観測では噴火をとらえたことはない。「あかつき」が観測に成功すれば世界初だ。

雲の動きを撮影、2μm赤外線カメラ

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2μm(マイクロメートル)赤外線カメラ(IR2)は、主に雲の動きを撮影する。金星の地表から発する赤外線を雲がさえぎる様子を撮影することで、夜間も観測ができる。写真は右半分が金星の夜、左半分が昼の部分で、ザラザラとしたノイズは赤外線が強すぎる、いわゆる「白飛び」のような状態だ。

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謎の現象発見、中間赤外カメラ

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中間赤外カメラ(LIR)は雲の上部を撮影するカメラだ。このカメラは12月7日の金星到着直後に、これまで観測されたことのない現象をとらえた。写真の中央左寄りに見える、白い弓型の筋だ。

この弓型の部分は、金星を4日で1周する強風「スーパーローテーション」に逆らう格好で、4日間も観測されたが、その後は現れていない。金星の新たな謎だ。

硫酸の濃度を調べる紫外イメージャ

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紫外イメージャ(UVI)は2つの波長の紫外線で金星を撮影する。金星は太陽光の紫外線を反射しているが、1つの波長は硫酸が吸収しやすいため、紫外線の強さで大気中の硫酸の濃度がわかる。もうひとつの波長でも「何か」の濃度がわかることが過去の金星探査機の観測でわかっているが、その物質が何なのかはいまだ謎だ。

雷・大気光カメラは「太陽系初」

金星にも雷があるのかどうかは、これまでわかっていなかった。過去の探査機が撮影した画像に小さな光が写っていても、それが雷かノイズかの区別がつかなかったのだ。そこで雷・大気光カメラ(LAC)は1秒間に約3万枚もの写真を撮影することにした。雷であれば前後の写真にも発光が写るはずだからだ。なお近年、地球上のゲリラ豪雨予報などに雷の観測が有効だということがわかってきたが、地球を広範囲で観測できる雷観測衛星はまだなく、「あかつき」は「太陽系初の雷観測衛星」ということになる。

LACは高感度のため、カメラが壊れないよう少しずつ感度を上げながら調整している。雷が撮影できるのは金星の夜側だけで、夜側が見えるのは10日に1度のため、調整が進んで本格的な観測が始まるのは6月頃の予定だ。

地球から金星を「透かして」見る電波掩蔽観測

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「あかつき」には非常に正確な周波数の電波を送信する、超高安定発振器(USO)が搭載されている。「あかつき」が地球から見て金星の向こう側を通るとき、金星の大気を透かして電波が届くことで、大気の高さ方向の温度変化を知ることができる。これを電波掩蔽(えんぺい)観測(RS)と言う。

3月4日のRSによる観測では、「あかつき」が金星の向こう側に隠れるときと再び現れるときでは、気温の高度変化が異なっていることが確認された。これをカメラでの撮影結果を併せることで、大気の構造を解明できるだろう。

金星の謎解明へ、「ひとみ」にも「あきらめるな」

「あかつき」は今後、2年間の観測を行って当初目標である「フルサクセス」の達成を目指す。5年間も太陽系をさまよってからの観測開始で全ての観測機器が正常というのは驚異的だ。また、姿勢制御などに必要な推進剤は今後5年分程度残っており、「フルサクセス」達成後も観測を継続して「エクストラサクセス」の段階に入れる可能性もある。

金星の謎を解明することはどんな意味があるのだろうか。金星と地球はもともと大きさなどがよく似ているが、「スーパーローテーション」など地球とは全く違う気象現象が起きている。私達が自国と外国を比較することで自国の特徴に気付くことができるように、金星の気象現象を解明し、比較することで、地球の気象現象の解明に役立てられるだろう。

「あかつき」は、あわや大失敗という困難な状況から5年を掛け、奇跡的な復活を遂げた。そしてJAXAには今、同じく困難な状況にあるX線天文衛星「ひとみ」がある。「ひとみ」プロジェクトチームへのコメントを求められた中村プロマネはゆっくりと力強く答えた。

「最後まで、あきらめるな」

Image Credit: JAXA

金星探査機「あかつき」試験観測中間報告に関する説明会(JAXA)

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大貫 剛
東京都庁に技術職職員として11年間勤務後、民間宇宙開発を志して退職。ベンチャーを経て、宇宙開発や前職の経験を生かして公共事業に関する解説などの、情報発信をしている。宇宙作家クラブ会員。

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