小型ロケットSS-520失敗、原因は「徹底した軽量化」

スペシャリスト:
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2017年2月13日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は先頃打ち上げられた小型ロケット「SS-520 4号機」の失敗原因を公表した。原因は、軽量化のために施された様々な設計変更が複合して電線が断線した結果、ロケットの電子機器の電源が失われたものと推定された。

飛行中の振動により電線が断線

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失敗原因を結論から言えば、ロケットの猛烈な加速と振動により電線が機体とこすれ、ガラス繊維の保護材や絶縁被覆が破れて24Vの電源ケーブルが露出、地絡(ショート)により電源分配器が破損したことだった。

前回の解説記事でも書いた通り、この部分は衛星打ち上げ用に新規開発された第3段以上ではなく、観測ロケット「SS-520」の第2段として実績のある部分であり、失敗するほどのトラブルは意外だった。しかし今回の説明で、SS-520にも様々な改良が加えられていたことが明かされた。

数キロの軽量化のために

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今回の打ち上げは既存の2段式観測ロケット(宇宙には届くが衛星にならずに落下するロケット)に第3段を追加して衛星を打ち上げるというものだった。そのため、ベースとなるSS-520は極力そのまま使用して開発費を抑えていたが、それでも改良は必須だったという。SS-520は小型ロケットとはいえ総重量2.6t。それを数kg程度軽量化しないと衛星の打ち上げは不可能だった。ギリギリの性能だったのだ。

そのため、わずかな軽量化の積み重ねが実施されたが、ひとつひとつは問題がなくても全てが合わさった時に、予想外のトラブルが起きてしまった。構造体をステンレスからアルミニウムに変更したことで、飛行中の加熱で温度が上がりやすくなった。空気抵抗を減らすためのカバーが電線を強く押さえつけてしまった。電線を軽量化するために従来より細い電線を使用していた。その結果、押さえつけられた場所で電線が構造体とこすれ、打ち上げ後20秒で被覆が破れてしまったというのだ。この仮説に基づいて実物の電線に打ち上げから20秒間に相当する摩擦を与えたところ、実際に被覆が破れることが確認された。

SS-520は高価な固体ロケットモーター(ロケット本体)や電子機器などは既存品を使用していたが、軽量化のための細かい修正は数多く行われていた。それが重なった結果の失敗だった。

原因を突き止めた「ありきたりのトラブル」

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この原因にたどり着くには、ひとつの推理があった。

実績のある第2段が突然故障するという予想外のトラブルに直面した実験チームは、記録データを前に困惑していた。数日を経たあるとき、プロジェクトリーダーの羽生宏人准教授はひとつのデータに気付く。ロケットからのデータ送信が途絶える0.4秒前、「2段モータひずみセンサ」の値が異常になっていたのだ。

このセンサーは飛行制御などに必要なものではなく、打ち上げのついでにデータを取っておく程度のものなので、これまでの打ち上げでも飛行中に故障することがあった。それほど信頼性を求めていなかったのだ。そのため今回も「また壊れたのか」と思われていたのだが、羽生准教授は「もし、これが偶然ではなかったら」と気付く。そして、「2段モータひずみセンサ」と電源の両方が壊れるのは、ある1個所の電線が切れることでしか説明できないことを突き止めた。

ありきたりの故障と思われた、あまり重要ではないセンサーのデータ異常が、SS-520を「原因不明の失敗」から救い出したのだった。

技術を実証するための小型ロケット実験

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それにしても、電気や機械を扱ったことのある人であれば「電線が振動で摩耗してショートする」というのはかなり身近なトラブルと感じるだろう。意地悪く言えば、初歩的なトラブルと言えないこともない。しかし今回、電線が切れたのは打ち上げわずか20秒後で、ロケットに加わる力のすさまじさがわかる。宇宙科学研究所の稲谷芳文副所長は「同種の失敗は記憶にないが、今回も配線の基本的なルールは守っていた」と説明した。

電線の極限までの軽量化はこれまでにないチャレンジだった。羽生准教授は「ロケットは小型化するほど、電線など燃料以外の重量の割合が多くなっていく。小型ロケットを開発するうえで、軽量化は不可欠だ」と説明する。H-IIAロケットはジャンボジェットほどの重量だが、SS-520は小型トラック並みだ。衛星を打ち上げるために搭載できる電子機器には格段の差がある。

さらに稲谷副所長は「今回は民生品の使用に注目されたが、民生品は低コスト化だけでなく、軽量化の効果も大きい」と説明した。一例として、電線のコネクタを金属製の宇宙用品から樹脂製の民生品に変更したことが挙げられたが、このコネクタは失敗原因とは無関係だと確認されている。羽生准教授は「まず失敗の原因を究明して説明することが必要だったが、成功した点はなぜ失敗しなかったのかを研究することも、同じように重要だと考えている」と語った。

一部では再実験の可能性が報道されていたが、JAXA内では現時点で何も決まっていないという。しかし、今回の失敗の経験は日本のロケット開発に活用されることになるだろう。稲谷副所長はその意義を次のように語った。

「基幹ロケット(H-IIAロケットやイプシロンロケットなど)は確実に打ち上げるため、実証済みの技術しか使わない。小型ロケット実験は、将来必要な新しい技術を実証するためのものだ」

Image Credit:JAXA

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大貫 剛
東京都庁に技術職職員として11年間勤務後、民間宇宙開発を志して退職。ベンチャーを経て、宇宙開発や前職の経験を生かして公共事業に関する解説などの、情報発信をしている。宇宙作家クラブ会員。

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